サイバー攻撃は他人事ではない
もしあなたのパソコンに13秒に1回、外部からアクセスされているとしたら??
これは、情報通信分野を専門とする公的研究機関である情報通信研究機構(NICT)が運用する「ダークネット観測網」のデータが示したもの。ダークネット観測網では、通常はアクセスされることのない未使用のIPアドレスに飛んでくるアクセス(=無差別なサイバー攻撃や通信)を観測しており、2025年に確認された1IPアドレスあたりの年間観測パケット(アクセス)数は、約250万パケットという観測以来の最多を記録。これは単純計算すれば、1つのIPアドレスに対し、約13秒に1回の頻度で何らかのアクセスが到達しているという膨大な数になる。もはや、誰もがサイバー攻撃の対象となり得る時代を私たちは生きているのだ。
ちなみに、過去にサイバー攻撃を受けたことがある(可能性がある場合も含む)と回答した九州・沖縄の企業の割合は29.3%(帝国データバンク福岡支店 2025年調べ)。示されたデータを見ながら意外と少ないかも?と思っていると、「7割の企業は気づいていないだけで、実際は多くの企業がサイバー攻撃を受けているはずです」と、世にも恐ろしい話をしてくれたのがQTnetの江川さんと妻鳥さん。
QTnetでは光インターネットの「BBIQ」やスマートフォンサービスの「QTmobile」といった九州ではおなじみのサービスに加え、さまざまな法人向けビジネスを手掛けており、セキュリティ関連サービスは得意分野のひとつとなっている。
桶の水は一番低いところから漏れる
フィッシングやBEC(ビジネスメール詐欺)、大量のアクセスを集中させてシステムをダウンさせるDDoS攻撃など、多様なサイバー攻撃の脅威が依然として衰えないなか、近年特にその被害の深刻さで際立っているのが「ランサムウェア」(=暗号化されたデータの復号と引き換えに身代金を要求するウイルス)である。そしてもうひとつ、これら多種多様な攻撃に共通する特徴として、グループ企業や業務委託先といった社外のネットワークを足がかりに侵入を許し、サプライチェーン全体に関係する大規模な被害へとつながっているという点も見逃せない。
「サイバーセキュリティの業界では“桶の水は一番低いところから漏れる”という格言があります。大企業を直接攻撃しても守りを固められていることが増えてきたので、セキュリティが弱い取引先、子会社から侵入して、そこから大企業にたどり着こうとする手法がトレンドです」(妻鳥さん)
“オール九州”の先頭に立ってサイバー攻撃に立ち向かう
暮らしをどこまでも便利にしてくれるAIの進化も、サイバーセキュリティの観点から見れば困りもの。人間なら見逃してしまうようなセキュリティのわずかな隙であっても、AIを悪用すれば、いとも容易く探し出し、的確な攻撃を加えてしまう。現代社会を取り巻く環境を冷静に分析するほどに、1社だけでサイバー攻撃に対応することは困難、もはや不可能に近いレベルになっていることがわかり背筋が寒くなっていく。
「自社だけを守れば十分という時代は終わりました。専門的な知見をもつ組織と連携してノウハウを得ることや、取引先を含めたサプライチェーン全体での情報共有が、サイバー攻撃を防ぐためには必須なんです」
そう語る江川さんには、『九州サイバーセキュリティシンポジウム(KYUSEC)』副委員長という別の顔がある。2018年に設立された『KYUSEC(キューセック)』は、年1回のシンポジウムを中心とした活動で九州におけるサイバーセキュリティ意識の醸成、対策向上、産官学連携強化などを目指す団体だ。その実行委員には九州を代表する大手企業や大学が名を連ねており、シンポジウムには数百名の参加者が集う。民間企業主体で、これだけの規模でサイバーセキュリティをテーマにした活動を継続している組織は全国的に見ても珍しい。
そんな『KYUSEC』の活動をQTnetが主導している理由、それはQTnetが九州でも指折りの高度なサイバーセキュリティ分野の技術や知見をもっているからなのだ。技術力の高さを示す一例が、社内の情報セキュリティ専門部隊であるCSIRT(※)のレベルの高さ。QTnetはCSIRTの国際的な団体であるFIRSTに加盟しており、世界各国のサイバー攻撃に関する最新情報を共有している。このFIRSTへの加盟には厳しい基準が設けられており、九州で加盟しているのはQTnetだけ(2026年5月現在)。また、情報セキュリティ分野の国家資格の最高峰である情報処理安全確保支援士を40名(2026年7月現在)もの社員が取得している点も特筆すべきポイントだ。
(※)CSIRT・・・Computer Security Incident Response Teamの略。企業や行政機関などで、サイバー攻撃をはじめとした情報セキュリティに関するインシデントに対応する専門チームのこと
九州が大好き!だからみんなで守りたい!それが原動力
数名の有志で『KYUSEC』を立ち上げた2018年当時、九州はサイバーセキュリティにおける“後進エリア”だったと江川さんは振り返る。
「当時の九州にはサイバーセキュリティの情報共有ができるような組織がなく、中央との情報格差は著しいものでした。組織がないことの不満を言っても何も変わりませんから、自分たちで変えていこう、それが『KYUSEC』の原点です。そして、私以外にも同じような危機感や“九州愛”をもった方がたくさんいたからこそ、全国的にも稀有な組織へと成長していきました。この手のシンポジウムって1回だけやるのは、それほど難しくないんです。でも、これだけの規模で継続させるのは困難で、メンバーの高い志があってこその『KYUSEC』だと感じますね」
過去8回のシンポジウムは毎回場所を変え九州各地で行われており、シンポジウムをきっかけにして、県単位でのサイバーセキュリティ協議会が立ち上がった事例もある。
「回を重ねるたびに企業間の情報格差は確実に縮まっています。九州は自動車や半導体、造船、鉄鋼といったモノづくり産業の一大拠点です。さらに、農林水産業、食品製造・加工業、IT企業やスタートアップまで、多様な産業が集積し、九州内でサプライチェーンが完結しやすいという大きな特徴があります。だからこそ、そのサプライチェーン全体に影響を及ぼしかねないサイバー攻撃に対抗すべく、地域全体のセキュリティレベルを上げる必要がありますし、そのために『KYUSEC』が果たすべき役割は大きいと考えています」
セキュリティのプロが推奨する“意外な”セキュリティ対策
取材を通じてサイバー攻撃の脅威が身近に迫っていることを痛感し、急にそわそわしてきた我々は、いてもたってもいられず、「今日からできるセキュリティ対策って何ですか?」と江川さん、妻鳥さんに尋ねた。
「強固なパスワードを設定する、不審なメールのリンクや添付ファイルを開かない、それから……」
“そういう基本的なことじゃなくて、もっと画期的な対策はないのかな……”
そんな心の声が聞こえていたかのように、「サイバー攻撃って、基本的な対策で大抵の攻撃は防げるんですよ」と江川さん。
「攻撃手法は年々高度になっていますが、パスワードなどの基本的な対策でも大きな効果が得られます。重要なのは、それを徹底してやり続けるかどうかです」(江川さん)
そうは言っても、「何からセキュリティ対策を始めればいいのかわからない……」という企業からの相談にQTnetは応じている。
「『KYUSEC』の活動などを通じて、さまざまなメーカーや地元企業、業界団体とのネットワークを築いているので、常に最新のセキュリティトレンドをキャッチアップしていることは当社の強みです。対策を施したい箇所が明確なお客さまにも、漠然とセキュリティに不安があるというお客さまにも、最適なソリューションを最適な組み合わせで提案しています」(妻鳥さん)
激しさを増すサイバー攻撃の脅威に、九州全体で立ち向かおうとする『KYUSEC』、そして、その中心に立つQTnetの存在に頼もしさを感じつつ、「基本的な対策をやり続けていれば、大抵のサイバー攻撃は防げる」という江川さんの最後の言葉を胸に、帰ったらまずパスワードの再設定から始めようと心に誓ったVOICE編集部であった。







